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偽作曲(シリーズ1回目)

実際の作者とは異なる作者名で世に知られた作品を、「偽作」と呼ぶ。佐村河内守の作品だと知られていた数々が、実は新垣隆氏がゴーストライティングしていたことが明らかになった、つい先日のスキャンダルも、その作品は「偽作」だったということになる。


実は偽作だと明らかになった非常に有名で優れた曲が、騙られた作者のものとして世に広まる経緯などを追うと、作品に対する思い入れ方も変わったりすることもあろう。ということで、偽作に焦点をあてて、とりあげていくのが本シリーズである。

 

ペツォールト作曲
「バッハのメヌエット ト長調 BWV Anhang 114」
「バッハのメヌエット ト短調 BWV Anhang 115」

真の作曲家ペツォールト(Christian Pezold, 1677年 - 1733年)は、ドイツで活躍したオルガン奏者である。J.S.バッハ作として広まったこの2曲を除けば、現在取り上げられる曲は殆ど書いていない。


偽りの作者、バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685年 - 1750年)は、ペツォールトとほぼ同時代である。この曲が「偽作」になってしまった切っ掛けはJ.S.バッハにあるが、J.S.バッハは作曲者名を偽ろうとしたわけではなく、バッハの2人目の妻アンナ・マクダレーナにバッハが与えたノート、通称「アンナ・マクダレーナのための音楽帖」に書かれた多数の楽譜に、これらの曲が収められていたためである。バッハは、楽譜をこのノートに書くにあたって、作曲者名を付さずに書いていたため、後世このノートが知られた際に、すべての曲がJ.S.バッハの作だと誤解されてしまったのだ。このペツォールト作のメヌエットの他にも、BWVの114~132,509,515,516としてバッハの曲とされてきた作品は、今では偽作だと考えられている。


なお、「アンナ・マクダレーナのための音楽帖」について、バッハが亡くなった後に、アンナ・マクダレーナがバッハを想って書いたものという事実とは異なる設定に基づいたEsther Meynellの手によるフィクションが、日本では作者名とフィクションであることが伏せられ偽書となって出版されたため、日本では真実かのように広がってしまっているので注意が必要だ。

 

これら2曲の楽譜はimslpで入手できる。

Minuet in G major (Pezold, Christian) - IMSLP/Petrucci Music Library: Free Public Domain Sheet Music

Minuet in G major (Pezold, Christian) - IMSLP/Petrucci Music Library: Free Public Domain Sheet Music

 

2017年4月16日に開催された「ピアノマニア弾き合い会」 での私の演奏が、

20170416ピアノマニア弾き合い会「バッハのメヌエット ト長調 BWV Anhang 114」 by Ako Fujiwaka | Free Listening on SoundCloud

20170416ピアノマニア弾き合い会「バッハのメヌエット ト短調BWV Anh. 115(ペツォールト)」 by Ako Fujiwaka | Free Listening on SoundCloud

に置いてある。一応、「あーこの曲ね」の参考にしてもらえばと思う。

 

ヴァヴィロフ作曲
カッチーニアヴェ・マリア

偽られた作者カッチーニ(Giulio Caccini, 1545年頃 - 1618年)はイタリアの作曲家である。その時代まで主流だったポリフォニールネサンス音楽に代わる、モノディ形式と呼ばれる独唱スタイルの音楽を現し評判になったようだ。オペラ作品がいくつか今でも知られている。一方。真の作者ヴァヴィロフ(Vladimir Fiodorovich Vavilov, 1925年 – 1973年)はソ連のギタリスト・リュート奏者である。

 

ヴァヴィロフは、自作曲を演奏、録音する際に、自身の作とはせず、古典の作曲家名を付して発表することがしばしばあったようで、多数の偽作曲を残しており、いずれも騙った作曲家の作風や当時の音楽様式を全く気にしないものだった。そのため、騙られた作曲家の様式を知っている者にとっては、それが偽作であることは明らかなものばかりだと言う。「カッチーニアヴェ・マリア」は、1970年のヴァヴィロフの演奏の初録音によるCDでは作者不詳、1972年の演奏のCDではD.Cacciniの作(Giulio Cacciniとはイニシャルが異なる)として広まった。


ヴァヴィロフの親族の証言によれば、「自身の作として発表しても誰も聴いてくれないから」ということのようだが、この時期のソ連の状況では、「作曲」が政治的な困難を伴うことだった可能性もあろう。

ピアノソロ用の楽譜として、www.free-scores.comに掲載されているものが難度と効果のバランスが取れていて良いと思う。

www.free-scores.com

2017年4月16日に開催された「ピアノマニア弾き合い会」 での私の演奏は、

20170416ピアノマニア弾き合い会「カッチーニのアヴェマリア(ヴァヴィロフ)」 by Ako Fujiwaka | Free Listening on SoundCloud

かなりミスタッチが多いが……。

 


ジャゾット作曲
アルビノーニアダージョ

偽られた作者アルビノーニ(Tomaso Giovanni Albinoni, 1671年 - 1751年)は、イタリアの作曲家であり、オペラや、器楽曲に多くの功績がある。一方、真の作者ジャゾット(Remo Giazotto, 1910年 – 1998年)はイタリアの音楽学者である。音楽学者なので、「アルビノーニアダージョ」以外の作品は全く知られていない。


イタリアのザクセン国立図書館は、第二次世界大戦の空襲を受けて被害を受け、古い楽譜が散逸し失われた。戦後、残された書籍や楽譜が集められ、再整理されたのだが、ジャゾットはアルビノーニの作品の再整理の作業に携わっていた。そのジャゾットが、ザクセン国立図書館から収集された資料の中から、アルビノーニが作曲したトリオソナタト短調の楽譜(の断片)が見つかり、それを復元ないしは編曲したものとして公表したのが、この「アルビノーニアダージョ」である。しかし、実際にはアルビノーニが書いたものは何ら使われていなかったことが後に明らかになった。

 

ジャゾットが亡くなった後、「アルビノーニの功績を世に知らせたかった」というジャゾットの意思が親族によって明らかにされたという言い伝えが残っているが、実際のところは定かではない。

 

この曲に関する著作権については様々な解釈がなされているが、その出版物について解説(Albinoni vs Giazotto – zagadka w tonacji g-moll. | drzoanna)から分かるように、この曲「アルビノーニアダージョ」についての著作権をジャゾットは放棄したものと私は解している。

 

ピアノ用にアレンジした楽譜を

(Giazotto) Albinoni - Adagio in G Minor for Piano by AkoFujiwaka musescore.com


に公開した。2017年4月16日に開催された「ピアノマニア弾き合い会」 で私が弾いた演奏はSoundCloudで聴ける。

 

soundcloud.com


今後も偽作曲をとりあげたいと考えている。