誰がために鐘は鳴る (ジョン・ダン)

"Never send to know for whom the bell tolls" (Meditation #17 By John Donne) 
(日本語訳:問うなかれ、誰がために弔いの鐘は鳴るやと (ジョン・ダン「瞑想録」17より)

 

二人の「ヘイノ」による「鐘」作品


フィンランドの作曲家、カスキ(Heino Kaski)と、エストニアの作曲家エッレル(Heino Eller)の鐘の音をテーマにした作品をとりあげる。

 

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カスキ「古い時計台」、エッレル「プレリュード」、「鐘」 

 

カスキとエッレルが過ごした時代


これら二人の作曲家の母国の言葉、フィンランド語とエストニア語は同じバルト・フィン諸語に属する、近親言語だとのことだ。二人の名前(Given Name)がともに「ヘイノ」"Heino"と一致しているのは、偶然だとは言え、互いの母語などの文化背景の共通性に通じている。さらに、この2人の生まれ育った地域の時代性、社会状況も共通するものがあり、それがこの2人の作品に影響している。

 

カスキは1885年6月21日生まれ、エッレルは1887年3月7日生まれで、ほぼ同時期に生まれている。カスキの生まれたフィンランドも、エッレルが生まれたエストニアも、この頃ロシアの実質支配下にあった。

 

1917年ロシア革命が勃発し1922年に社会主義国ソビエト連邦に変貌した。一方、フィンランドエストニアは、ロシア革命の混乱の2~3年後に独立して共和国となる。ソビエト連邦では政権を掌握した無神論政党ボリシェヴィキが、宗教を否定し、1930年代まで激しい宗教弾圧をおこなった1921年から1923年だけでも1万人近い聖職者が処刑され、聖堂や修道院が閉鎖され、鐘は楼から降ろされ鋳つぶされた。(エッレルは1920年までサンクトペテルブルクに居たので、恐らくこの教会弾圧を目の当りにしていると思われる)

 

そうしたソビエト連邦の宗教弾圧や表現規制を間近に見ながら、カスキは1926年ごろ「古い時計台」(Das alte Glockentürmchen)を 作曲し、エッレルは1929年に「鐘」Kellad (Die Glocken)を作曲した。その鐘の音が母国に鳴り響き続けることへの祈念がこれらの曲には籠っているのではなかろうか。

 

その後、1940年、フィンランドはカレリア地方の大半(カスキが通った学校の地域も含まれる)をソ連に奪われ、エストニアは全土をソ連に占領されてしまう。なお、彼らの曲のモデルとなった鐘(と推測されるもの)は、鋳つぶされることもなく、今なおその音を聴くことができる。

カスキが聴いた鐘

カスキの父は、教会のオルガニストだったことが知られており、恐らく彼の父がオルガンを弾いた生まれ故郷の教会の鐘の音をモデルにして作曲したものと推測される。カスキの出生地はピエリスヤルヴィ(Pielisjärvi)という地で、カスキを研究し世界に知らしめた舘野泉は、1980年代に、その地名がフィンランド地図に無いことから1940年にソ連に占領されたカレリア共和国のどこかではないかと推測しているが、ピエリスヤルヴィは1973年にリエスカ(Lieksa)という地域と統合、吸収されていただけであった。

 

旧ピエリスヤルヴィ地域に、1880年台には存在し、その当時からオルガンと時計台(鐘楼)がある教会というのを一カ所だけ発見できた。それは、リエスカ教会("Lieksan kirkkoW、旧名"Pielisjarven kirkko")と言う名のルーテル教会プロテスタント系教会)である。

 

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/a3/Lieksa_bell_tower.jpg

エスカ教会の鐘楼(Wikipediaより)

 

教会堂は火災により建て替えられているが、50mほど離れた裏手にある鐘楼は、1836年に建てられてから変わっておらず、ロシアのサンクトペテルブルクから取り出された2つの鐘が購入され、取り付けられている。

 

カスキの「古い時計台」のモデルとなった鐘の音を聴くことができる。

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エッレルが聴いた鐘


一方、エッレルの「鐘」のモデルとなった教会とその鐘のことは、よく知られており、エッレルが帰国して暮らしたタルトゥにある、タルトゥセントポール教会(Tartu Pauluse kirik)という名のルーテル教会である。

 

タルトゥ セントポール教会の鐘楼

 

セントポール教会の鐘はドイツのボーフムで鋳造され、1923年に設置されている。1944年に戦争で教会が焼かれ、鐘が塔から墜ちたとのことだが、1946年には修復されている(Kellad — SA Pauluse Kirik)。この2つの鐘の音高はGesとEsにチューニングされており、このGesとEsの音がエッレルの「鐘」の動機の主要音となっている。

 

エッレルの「鐘」のモデルとなった、セントポール教会の鐘の音も聴くことができる。

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ラフマニノフの「鐘」

 

なお、「鐘」と言えば、ラフマニノフのプレリュード Op.3-2 嬰ハ短調が思い出されるが、ラフマニノフの「鐘」にはカスキとエッレルらの「鐘」との若干の違いがある。

 

ラフマニノフの「鐘」は1892年に書かれていて、作曲の社会的背景について「鐘」が鋳つぶされる教会弾圧と無縁であったことが異なる点の一つであるが、カスキやエッレルのモデルとなった「鐘」はルーテル教会の「鐘」であるが、ラフマニノフがモデルにしたのはロシア正教の「鐘」であったという大きな違いがる。

 

ルーテル教会の(当時の)鐘は、原則として大きな鐘が1つか2つであり、その鐘自体を振って鳴らす。一方ロシア正教の鐘は、多数の鐘(7つ一組という説明がなされているドキュメントもある)であり、その舌の部分にロープをつけて舌を振り動かして鐘の内面に当てて鳴らす。そのことから、カスキやエッレルが想念していただろう鐘の音と、ラフマニノフが愛した鐘の音は全く違うはずである。

 

ラフマニノフが聴いた鐘が何処の教会のものかは明らかではないが、(ラフマニノフがいた)モスクワのロシア教会の鐘の例として、救世主ハリストス大聖堂(1931年にソ連当局によって爆破されており、現在の建築物は1990年代に再建)を聴いてみると良いだろう。

 

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鐘は鳴る 

"Never send to know for whom the bell tolls; it tolls for thee."

敢へて問ふに及ばぬ、誰がために弔いの鐘は鳴るやと。鐘は汝がために鳴るなり。

 

 

 

作曲した楽曲の(国際的な)Identification方法についてのメモ

国際標準番号制度において、書籍に付される番号は国際標準図書番号(ISBN)。楽譜にISBNを付与することはできない


楽譜に付与されるのは国際標準楽譜番号(ISMN)であるが、日本では用いられていないし、登録Agencyが無いので登録できない。

 

日本において電子出版物にはISBNの他、JP-e(JDCNコードを包含する)も用いられている。JP-eは出版情報登録センター(JPRO)に登録されている出版社のみに対して発行されるが、登録出版社は「取次会社との(因習的な)取引」がないと事実上登録できない(嘔吐)。

出版情報登録センター(JPRO)に登録されている出版権2,354,702件のうち、楽譜の出版権はわずかに22件で、事実上NHK出版と音楽之友社が「様子見」として登録しているに過ぎない。

 

JASRACが「JASRACの国際ネットワーク」として掲げてるうち、著作権管理団体の国際団体はCISAC(著作権協会国際連合) 。CISACが音楽家のための組織として掲げてるのが、国際音楽創作者評議会(CIAM, the International Council of Music Creators)CIAMの活動レポートと称するドキュメント類 (New ISP rates negotiations in Japan Issued in July 2015)などDNSエラーになって見れない。

 

JASRACが「JASRACの国際ネットワーク」として掲げてるアジア・太平洋音楽創作者連盟(APMA) は2017創立の謎の団体。これまでに2回総会が行われて、何の中身も無い「声明」を出しておしまい。

 

楽曲作品に付与される国際標準番号制度にはISWCもある。が、ISWCのエージェンシーはJASRACなので、JASRACの軍門に下らなければこの番号は使えない。

なお、楽曲の附番組織として「ISWC for Music Users」というのもあるようだが、その紹介ページはUnder Constructionである。

 

文化庁著作権登録制度は、第1発表年月日の登録で3千円/作品、著作者の(実名)登録で9千円/作品、出版権設定登録で3万円/作品とコスト高である。

楽譜販売について悩み中

今更「なんでGumroadに苦言まとめエントリ書く人は『黒いことしてバレると人生ゲームオーバーヤバい』ってことを、誰も書かないの?イデオロギー的な理由とかなの? - Togetter」を読んでるのだけれど、鷹野凌@HON.jpさん の主張内容が今一つ分からなくて困っている。

深津貴之さんは、「誰でもデータを直販できるGumroad入門。クリエイターの生活は変わる? | fladdict」の記事で、「自作のオリジナルコンテンツを売るクリエーターにとっては、Gumroadは素晴らしいサービスだ」とは言っているが、クリエーター以外の人々や組織や社会にとってどうかは言及してないように私は見える。

その点、鷹野凌さんの言う「危険性」は深津貴之さんの主張と噛み合ってないように思えてならない。

鷹野凌さんは、「Gumroad の問題点についてもう少し掘り下げてみました。:見て歩く者 by 鷹野凌」において、「コンテンツを販売する立場」の人のリスクとして「本人が全く自覚がないまま犯罪を冒してしまう可能性も高い」ことを述べているけれども、これはまさしく、Gumroadに限ったことではない。

私の場合、(著作権切れ作品を)編曲した楽譜を売ることを考えていて、楽譜を販売してくれるサイトをいくつか調べているが、著作権侵害でないかを(一定の基準に沿って)審査して、パスしたものだけを販売するとするサイトもある。

が、その審査基準はあくまでも「目安」としか言いようのないもので、著作権侵害でないものを著作権侵害としてしまうことも大いにあるし、著作権侵害のものを審査合格として販売してしまうこともある。

そして何より注意しなければならないのは、こうした厳格な審査基準を持ってコンテンツを扱う事業者も、一たび著作権侵害だとして訴訟を提起された場合、著作物提供者を何ら護ってはくれない。護るどころか、損害賠償を請求するぞと規約に書いてある。

著作権問題に厳格なサイトであっても、コンテンツ提供者(クリエーター)の訴訟リスクはGumroadと原理的には何ら変わらないのだ。

余談にはなるが、鷹野凌さんの記事の「コンテンツを購入する立場」のリスクとして、決済リスクについて以外に、著作権的な面からのリスクについて言及してないのは、コンテンツ提供者のリスク考察と対称性がなくてもやっとしてしまう。

著作権フリーのコンテンツの(低劣なパッケージ)を、すさまじい高額な値段で売っているサイトも少なからずあって、そういうところから購入してしまうリスクにも言及するのが筋ではないのだろうか。

そりゃぁ、サイトの脆弱性とかクレジットの信用とか気になると言えば気になるが、それなりに頑張ってるように見えたDLmarketだって、ダメな時はダメだったのだ。残念ながらそのリスクを評価するための情報を、外部の我々は基本的に持たない。

販売手数料が安い(ロイヤリティが高い)ため安価で販売できるが、安全性が危うげに見える販売サイトと、
販売手数料が高い(ロイヤリティが低い)ため高価な価格設定になるが、安全性は高そうに見える販売サイトと、
両方使うから、購入者は好き好きに選んでくださいとしか言えない。

と、まぁこんなことをつらつら思っているのだが、要するに、Gumroadで楽譜販売するか否かを迷っているのだ。

Music Shop Europe とのトラブル経緯のメモ


akof.hatenablog.com

↑この辺にも書いた、MusicShopEuropeとのトラブルの顛末を簡単にまとめておきます。

  • MusicShopEuropeのサイトで、探していた作曲家の、しかし作品リストでもみたことがない曲の楽譜を見つけたので発注をしました。

  • ところが、送られてきたのは、別の作曲家の楽譜。楽譜が間違えて送られてきたことをメールで通知すると、「よくある間違い」だ言うだけで一切対応しようとしません。

 

  • 要りもしない楽譜を買わされ、この時点で既に詐欺に遭った気分ですが、こちらのオーダーしたとおりの楽譜と交換して欲しいと要求します。

  • MusicShopEuropeは「そのような楽譜は無い」と言い出し、私が発注に使ったオンラインショップのウェブページを、(間違えて送ってきた方の)作曲家名に書き換えてしまいました。

 

  • ウェブページを書き換えようとこちらはウェブページのスクリーンショットも発注記録も全部録ってありますから、在庫がないにしても、版元から取り寄せるなりして対応して欲しいと主張します

  • が、「その(間違えて送った)楽譜は記念にとっておけ」などと言募るだけで、あくまで何もしようとしません。(実は、版元から楽譜販売ショップに送られていた情報が間違っていたのだということが、後に版元とのやりとりで明らかになるのですが、この時点で私はそんなことを知りません。)

 

  • オーダーした楽譜をあくまで売らないのなら、支払い済の代金を返金して欲しいと主張します(この辺から私も喧嘩腰になってました)。

  • 先に楽譜を返送したら、返金すると言います。

 

  • しかし、ここまで何ら実質的な対応してこなかったMusicShopEuropeに、楽譜を返してしまってそれっきりになる懸念を感じたので、返金が確認されない限り、楽譜は返送しないと主張します。

  • あくまでも、楽譜返送が先だと主張し、「楽譜販売を20年以上やっているが、そのような奇妙で無茶苦茶な主張をした輩は初めてだ」と暴言までよこしてきます。

 

  • このあたりで、国民生活センターや、オンライントラブル相談の窓口に相談しはじめますが、海外サイトとなると「知りません」としか言ってくれません。
  • とにかく返金を主張し続けます。

  • EUの法律で、「オンラインで買った商品は、2週間以内に返品したら、(返品理由の如何を問わず)商品代金は100%返金しなければならない」というのがあるから、(それに準じて)対応してやると、MusicShopEuropeから回答を得ました。楽譜の送料も返金対象とするとの確約付きです。(何度も確認しました)

 

  • EMSにて楽譜を返送しました。

  • しばらくして、楽譜の代金だけ(クレジットカードの代金払い戻しプログラムを使ったらしく)返金されました。が、あれほどしっかりと約束した楽譜の返送送料が返金されません。実は、楽譜代より、日本からのEMSの送料の方が随分高額です。

 

  • 懸念通り、楽譜の返送送料が支払われなかったことにあたまに来て、楽譜の版元に、(正式な代理店の)MusicShopEuropeが楽譜の送り付け詐欺をやってるが、これは版元もぐるになってやってるのか?ぐるでないのなら、MusicShopEuropeに楽譜送料を返金するように申し言れて欲しいと連絡します。

  • 版元のお偉いさんらしい人が対応してくれて、この件は預かるから暫く待ってくれと返信が来ます。

  • MusicShopEuropeから返金の申し出があり、返金方法について問われたのでこちらの銀行口座を伝えます(つまり、国際送金になります)。2週間ほど経って、楽譜送料分の現金が、私の口座がある日本の銀行に送金手続きされたようです。
  • が、ここで銀行から私に電話連絡があります。国際送金手数料がかかる(受取人払い)なのだが、その手数料を払うと、送金された額を超えるので、「受け取れるのはマイナスの金額です」と。受け取り拒否しますかという問合わせです。

 

復習:楽譜代金 < 楽譜送料 < 国際送金手数料

 

  • MusicShopEuropeからの楽譜送料返金分の現金受け取りを拒否手続きし、MusicShopEuropeと版元に連絡します。「なんの嫌がらせかしらないけど、私に損をさせようとしてるのですか?」と

  • 約1か月後、ようやく、送金元が手数料分を上乗せする形で、国際送金されてきました。レートの関係で、40円ほど不足していました。が、仕方がないので、受け取ってこれで終わりにしました。

 

最初に楽譜をオーダーしてから、「何も買わなかった、何も支払ってなかった」状態に戻るまで、半年ぐらいかかりました。


最後に:消費者センター等、オンラインショッピングのトラブル相談、法律相談を掲げてるところ、ほんとに何にもしてくれません。「先方の国の弁護士を紹介して欲しい」(紹介料も払う)という依頼すら相手にしてくれません。

2018年弾いた曲

2018年は、一輪車を引退したり、体調不調が続いたりと、ぱっとしない話が多かったが、音楽演奏はまずまず頑張れたように思う。

 

1月

1月28日 ピアノマニア弾き合い会

 

2月

2月25日 第27回関西ついぴ

 

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3月

3月21日 ゼフィルス音楽フォーラム

 

3月24日 ピアノマニア弾き合い会

 

4月

4月22日 ピアノマニア弾き合い会

 

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5月

5月12日 第28回関西ついぴ

 

5月20日 ピアノマニア弾き合い会

 

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6月

6月17日 ピアノマニア弾き合い会

6月23日 第47回東京ついぴ

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7月

7月21日 ピアノマニア弾き合い会

 

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8月

8月11日 第29回関西ついぴ

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8月18日 ピアノマニア弾き合い会

 

9月

9月16日 ピアノマニア弾き合い会

  • マデトヤ「死の庭」Op.41-1&3

 

10月

10月6日 SK普及委員会

 

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10月7日 ピアノマニア弾き合い会

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10月28日 ピアノマニア弾き合い会

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11月

11月10日 ピアノマニア弾き合い会

  • ホルスト「惑星」より「火星」(2台ピアノ:さちさん)
  • ブルグミュラー=フランク「25の練習曲」より「貴婦人の乗馬」(2台ピアノ:さんちゃん)

 

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11月24日 第20回関西ついぴ

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12月

12月9日 ピアノマニア弾き合い会

 

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12月15日 マニアックなピアノ曲を弾く会「衝撃の鍵盤クリスマス」

  • ローゼンブラット「クリスマスファンタジー
  • ラヴェル=藤若「おもちゃのクリスマス」(ピアノソロ版)
  • フォーレ=藤若「クリスマス」Op.43-1(ピアノソロ版)
  • ドビュッシー=サンチェスパロモ「もう家のない子のクリスマス」(ピアノソロ版)

 

オマージュ

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今年はドビュッシー没後100年のアニバーサリーイヤーということでドビュッシーの曲を物色していた。そして「版画」の第2曲「グラナダの夕べ」(1903発表)を聴いた瞬間、「なんだこれ?これにそっくりな曲をラヴェルが書いていたはずでは!?」と強く感じた。

案に諮らんや、ラヴェル「スペイン狂詩曲」の第3曲「ハバネラ」(1908発表)が、ドビュッシーの「グラナダの夕べ」に似ていることが分かった。

そして調べていくうちに、この2曲が良く似ていると感じたのは私だけではなく、これらの曲が発表された当時から、よく似ていると話題になっていたことが分かってきた。なんと、ドビュッシーグラナダの夕べ」は、ラヴェル「ハバネラ」から盗作したのではないかとまで言われたのだとか。

彫刻家シャルル=ルネ・ド・ポール・ド・サン・マルソーの妻、Marguerite Jourdain(音楽サロン主宰し、ラヴェルの友人として知られている)は、ドビュッシーに対し、「ラヴェルの10年前の『ハバネラ』のアイデア盗んだものだ」と指弾したと伝えられている。(Matthew Brown 『Debussy's Ibéria』)。1908年に発表されたラヴェルの「スペイン狂詩曲」よりも先の1903年に発表されたドビュッシーの「グラナダの夕べ」の方に盗作疑惑をかけられたのには訳がある。

1898年3月5日の国民音楽協会第266回演奏会においてラヴェルは「耳で聴く風景」という組曲を発表して作曲家として公式デビューを果たした。この「耳で聴く風景」の第1曲こそ、「ハバネラ」だったのである。しかし、その楽譜は当時出版されなかった。

当時ラヴェルとの交友関係があったドビュッシーは、この国民音楽協会第266回演奏会の演奏を聴いており、さらにラヴェルから個人的に「耳で聴く風景」の手稿譜を借りていることが分かっている。そのことから、実際にはラヴェルの「ハバネラ」が先で、ドビュッシーの「グラナダの夕べ」の方が後なのだ。

ラヴェルは当時、自身の作によく似た「グラナダの夕べ」については不快感を示したといい、その頃からラヴェルドビュッシーの交友関係は途切れてしまったのだ。ラヴェルドビュッシーの様々な曲の間には類似性が見出されていて、ピエール・ラロがラヴェルの「博物誌」はドビュッシーの曲を盗んでいると酷評するなど、ラヴェルは何かと不愉快な目にあっていたようだ。

ラヴェルが、「スペイン狂詩曲」の第3曲に「ハバネラ」を入れて出版したのは、そうした流布されている「ラヴェルドビュッシーを真似ている」説を留めるためだったのではないかと言われている。「スペイン狂詩曲」の中で、唯一「ハバネラ」だけは「夜への前奏曲」の動機が現れないなど、他の3曲とは趣を異にするのは、ハバネラだけが全く別に作曲されたものだからだ。

さて、ドビュッシーは本当にラヴェルの「ハバネラ」の曲想を盗んだのだろうか。比較の譜例(Deborah Mawer著「The Cambridge Companion to Ravel」)を見ると非常によく似ている。全体の調性だけでなくこのようにメロディやく和音までが酷似しているのだ。

 

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しかし、ドビュッシーラヴェルの「ハバネラ」を盗んだとしては説明のしにくい奇妙なことがいくつか指摘されている。ドビュッシーは、ラヴェルから「ハバネラ」の楽譜を借りた後、ハバネラのリズムの曲を「グラナダの夕べ」よりも前に「リンダラハ」というハバネラのリズムの曲を作曲している。このドビュッシーの「リンダラハ」もラヴェルの「ハバネラ」と似ている面があり、そのためドビュッシーは「リンダラハ」を発表しなかったのではないかと言われている(リンダラハの出版はドビュッシーの死後である)。

しかし、リンダラハがラヴェルの「ハバネラ」にどれほど似ているかと楽譜を比較してみても、酷似しているとまでは思えない。「グラナダの夕べ」は和音進行がラヴェルの「ハバネラ」と同じ部分があるだけに、「グラナダの夕べ」の方がより似ていると思わせるものがあり、なぜドビュッシーは「リンダラハ」は発表をとりやめ、その一方で「グラナダの夕べ」を発表したのかというのは腑に落ちない印象がある。

 

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いくつかの研究では、ラヴェルドビュッシーはそもそも同じ和音進行形を好んで用いるために、この2人には似た曲の組み合わせが多くできてしまうのだという。(Deborah Mawer著「The Cambridge Companion to Ravel」)

実際、「ハバネラ」と「グラナダの夕べ」とで共通する和音進行は、ドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲」(1894年)にも現れているとのことであり、したがってドビュッシーがこの和音進行形を「ハバネラ」から盗んだわけではないとされている。(Deborah Mawer著「The Cambridge Companion to Ravel」)

それにしても、ラヴェルの「ハバネラ」とドビュッシーの「グラナダの夕べ」の動機はよく似ており、その類似性について気付き得たドビュッシーは、ラヴェルに一言断るなどすればよかったのにと思わざるを得ない。(ドビュッシーラヴェルに連絡することなく「グラナダの夕べ」を含む「版画」を発表演奏会をしている)

さて、スペイン人作曲家のファリャは、ラヴェルともドビュッシーとも親交があり、スペイン風のリズムを持つ、ラヴェルの「ハバネラ」もドビュッシーの「グラナダの夕べ」も、どちらも絶賛している。ファリャはフランス人作曲家の2人のよき理解者だったのだろう。

ドビュッシーが亡くなったあと、Revue musicaleという雑誌社が10人の作曲家にドビュッシーの追悼曲集のための作曲を依頼した。ファリャはその依頼を受けてて「オマージュ」というタイトルのギター曲(ファリャにとって唯一のギター曲)を作った。

この曲の最後には、ドビュッシーの「グラナダの夕べ」の動機がオマージュとして現れる。曲タイトルの「オマージュ」は、無論ドビュッシーのオマージュだという意味であるが、同時に、「『グラナダの夕べ』は(ラヴェルの)オマージュだ」と言えば良かったのではとファリャは語りかけてるようにも聴こえる。

 

youtu.be

20180225 第27回関西ツイピの会での演奏:

ドビュッシー/「版画」より「グラナダの夕べ」(1903)

ラヴェル(ガルバン編)/「スペイン狂詩曲」より「ハバネラ」(1908)

ファリャ(ファリャ編)/「ドビュッシーの墓碑銘」より「オマージュ」(1920)

 

そう、今年はドビュッシーの没後100年だ。 

 

追記:「NaxosofAmerica(Sono Luminus の代理)」から、Michael Lewin の演奏録音のパクリだと著作権侵害の申立てがあった。私の演奏が Lewin と同じ程度に上手いわけねーだろ。Lewin に対する最悪の侮辱だとわからんのか? Lewin に土下座して謝るべき。

著作権者達が、自身の扱う商売用コンテンツのクオリティを、底辺アマチュアの芥コンテンツと「同じだ」と主張して回って自身のコンテンツの価値を貶めてるのって、これ以上愚かなことがあろうかと思う。こう言えば目が覚める?「Lewinの演奏録音お金出して買うぐらいなら、藤若亜子の演奏をただで聴いた方が良いって、Naxosが言ってるよ」ってね。こういう究極の下衆と契約してしまったアーティスト(Lewin)が哀れである。

 

音楽(CD)が売れないとか言ってるの、当たり前だよね。売ってる商品を、「ごみと同じだ」と主張してまわってるんだから。こういう腐れた金の亡者は一刻も早く滅びるべき。

2017年弾いた曲

2017年は、網膜剥離で入院したり、追突されたりと災難もあったが、音楽演奏に関しては発展があった。

 

2月4日 「第23回関西ついぴ」

  • ルトスフワフスキー作曲 ソナタ 1楽章

4月16日「ピアノマニア弾き合い会」

4月22日「SHIGERUKAWAI普及演奏会」

  • ストラビンスキー作曲 "5つのやさしい小曲"から No.3「バラライカ」、 No.4「ナポリターナ」(長谷川美沙先生と連弾)
  • モンポウ作曲 "3つの遊び歌"から No.1「馬車の上にはお人形」、No.2「かささぎのマルゴ」、No.3「月のなかの3匹の子ウサギ」(長谷川美沙先生と連弾)

5月6日「第24回関西関西ついぴ」

5月13日「ピアノマニア弾き合い会」

7月16日「ピアノマニア弾き合い会」

8月5日「第25回関西ついぴ」

8月6日「ゼフィルス音楽フォーラム」

8月13日「ピアノマニア弾き合い会」

9月16日「ピアノを楽しく弾く会♪」

9月24日「ピアノマニア弾き合い会」

9月30日「みんなで作る音楽会」

10月28日「ピアノマニア平日練習会」

11月11日「マニアックなピアノ曲を弾く会」

11月12日「ピアノマニア弾き合い会」

11月18日「第26回関西ついぴ」

12月17日「ピアノマニア弾き合い会」