ハチャトゥリアン「仮面舞踏会」

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ハチャトゥリアン「仮面舞踏会」より「ワルツ」

ハチャトゥリアン(1903 – 1978)は、ミハイル・レールモントフ(1814 - 1841)が1935年に書いた戯曲「仮面舞踏会」の劇音楽として、1941年に劇音楽「仮面舞踏会」(全14曲)を作曲した。その後1944年にそのうちの5曲が組曲として編成される。

 

この「仮面舞踏会」のあらすじは次のようなものである:

  • 賭博師アルベーニンは美しい妻ニーナとともに仮面舞踏会へ行く。ニーナは仮面舞踏会の会場で、腕輪を落として失ってしまう。
  • 同じ仮面舞踏会で、アルベーニンに破産の危機を救ってもらったことがあるズヴェズヂッチ公爵が、シュトラーリ男爵未亡人を口説いた。男爵未亡人は、迫ってくる公爵をかわすために、たまたま会場で拾った腕輪を贈り物として渡してしまう。公爵は、会場で出会ったアルベーニンに、色恋相手の女性から贈られた腕輪を自慢として見せる。
  • アルベーニンは、公爵に見せられた腕輪が、妻ニーナがつけていたはずの腕輪であることに気づく。アルベーニンは、恩義のあるはずの公爵と妻ニーナが自分を裏切り恋仲になっているものと疑い、嫉妬する。
  • 再び仮面舞踏会に向かうアルベーニンと妻ニーナ。アルベーニンは、ニーナに浮気をしたことを悔いながら悶え死にさせることを企み、アイスクリームに毒を盛り、ニーナに食べさせる。
  • 何も知らないニーナは毒が回って次第に苦しみが襲ってくるなか、舞踏を舞う(ハチャトゥリアンの演出)。
  • そして不貞の告白を迫るアルベーニンに対して、無実を訴えながらニーナは苦しみながら死ぬ。

 なお、レールモントフは、主人公アルベーニンには罰が下されねばならぬと考えて第2版では次のようなストーリーを加えている。

  • 最後まで無実を訴えたニーナの死に戸惑うアルベーニンの前に、公爵や男爵未亡人、そしてアルベーニンに破産させられた男が現れ、真実が告げられ、無実の妻を殺したことが断罪される。そしてアルベーニンは罪悪心に打ちひしがれ、発狂する。

さらに、検閲によって上演を止められてしまった、レールモントフは、検閲を通すために、第3版(ФЭБ: Лермонтов. Маскарад. — 1935 (текст))では大幅にストーリーを変更しており、最後の部分は次のような内容に変容させられている。

  • 毒を盛ったというのはニーナに告白させようとしてついた嘘。そしてニーナは息を吹き返す。


冒頭に掲げた動画演奏の「ワルツ」は、ハチャトゥリアンがその劇において最大の山場と位置付けていた、毒を盛られたニーナが舞踏会で踊る場面で用いられる。ハチャトゥリアンはこの場面の曲を創るのに非常に苦労したようで、この曲ができた時には周囲に会心の作ができたと伝えたようだ。


レールモントフの「仮面舞踏会」のストーリーは20世紀初頭には非常に人気を博したようで、革命の銃弾飛びかう中、1917年に上演された記録があり、また、ハチャトゥリアンの劇音楽発表と同年である1941年には同名タイトル「仮面舞踏会」という映画(監督:Sergey Gerasimov、音楽:Venedikt Venediktovich Pushkov)が公開されている。

 

ハチャトゥリアンは死後50年経っておらず、著作権の保護期間が終わっていないことから楽譜を掲載することは控えた。その代わり冒頭掲げた動画では、公開後70年を過ぎてパブリックドメインとなっている映画「仮面舞踏会」(1941)から、舞踏会の場面を借りてきている。オリジナルとは異なる映像と音楽の組み合わせではあるが、同じ戯曲を基にしているだけあって、実によく調和していないだろうか。